「”鈍感力”について」
患者さんの噛み合わせの問題が複雑化すると難症例になることがあります。
顎の関節が健康ならば
噛み合わせを決める事は
あまり難しいことではないのですが
例えば古いブリッジや入れ歯で
ずれた噛み合わせのまま
何年も我慢していた患者さんの場合、
関節の位置がずれてしまっています。
そのずれは関節そのものだけでなく
その周囲の筋肉の動きや
靭帯の長さも、ずれてしまっています。
そのような場合
まず仮の入れ歯を入れて咬めるようにして
経過を見てゆきます。
そうすると徐々に健康な噛み合わせの位置に
関節が戻ってゆきます。
でも今度は仮の入れ歯が合わなくなってきて
口の中の粘膜に当たって痛くなります。
痛くなったらまた調整します。
そうしたらまたさらに関節がいい位置に近づいて
さらにまた入れ歯が当たってきます。
これの繰り返しですが
最後には関節がしっくりとした位置に戻って
安定した噛み合わせになって
入れ歯も安定します。
こうなるまでが勝負です。
患者さんには十分に説明してから始めますが
何度も痛くなると「どうなってるの」と
思われます。
クレームも言いたくなるでしょう。
これはしょうがない過程なのですが
その気持ちもわかります。
ここで大事な事は
患者さんのクレームに対して
医者が一緒にエキサイトしないことです。
そうしてしまうと医師ー患者関係が悪化して
治療が最後まで行きません。
正直先が見えない事もあります。
いい状態に向かっている証拠ではありますが
毎回のように痛みが出る
患者さんは不安になり、
クレームを言うのも当然です。
医者も一生懸命やっているのですが
「こっちも一生懸命なんですよ!」なんて
言いません。丁寧に説明して、
しっかり慎重に治療を続けるだけです。
ただし疲れている時など
感情的に反応してしまいそうになる事もあります。
微妙に表情や態度に出てしまう事もあり、
まだまだ修行が足りません。
そこは忍耐ですね。
自分の感情は置いておいて
問題の解決に集中しないといけないですね。
患者さんの痛みには敏感で
自分の痛みには鈍感であろうとすることは
時に大変ですが
何の仕事でもそうかもしれませんね。
いつもの話に戻ってしまいますが
自分の痛みに多少鈍感になる為に
武道をやっているようなところもあります。
雪の日に座禅をしたり
体のあちこちにアザを作って来たり
擦り傷で血の付いた道着を
洗濯に出したりすると
家族に「体にいいからやってんじゃないの???」
と聞かれる事があります
診療にさしさわる怪我は本末転倒ですが
そうでない範囲の多少の厳しさは
やっぱり必要なんだと思います。
優れた武道の指導者は本当にその辺の
さじ加減がすごいなあと
思ったりします。
2015年04月01日 00:00