歯科治療の記憶
ご高齢になって痴呆が進んでしまうと発語もなくなり、
表情の変化もなくなり
意思疎通ができなくなります。
昔、ご主人が車いすを押して
奥様を連れてくるご夫妻がいらっしゃいました。
その奥様も痴呆が進んでしまって
かぶせ物が取れたり
トラブルの時だけご夫婦でいらっしゃるのですが
やはり意思疎通は全く取れないし
全くしゃべらない状態でした。
治療も可能な範囲での対応になります
無理をしても危険なためです
そんなある日、前歯が取れた、と来られました。
口の中を拝見して、
何とか再装着できるかもしれないと
処置を始めようとしたところ
普段から全く発語のないその奥様が
ごく小さな声で
何か言っていることに気づきました
びっくりして
よくよく耳を澄まして聞いてみると
「はいしゃ、こわい」
とのことでした
その方がいつどのタイミングで痴呆になってしまったのかは
わかりませんが、
ほぼ全部の歯が治療途中でした。
それも途中までですが、かなりいい材料が使われていて
歯医者さんも腕によりをかけて
治療していたのだと思うのですが
治療の途中で何らかの病気で
中断になってしまったのでしょうか
歯科医が腕によりをかけて
これが患者さんのためだと
これがいいのだ、と
信じて行っている治療が
患者さんに恐怖感や苦痛を与えてしまうことも
一般的には、あるわけです。
気を付けないといけないと思いました。
治療が大きくなるほど、
難しい歯を救おうとするほど
そのハードルは高くなりますが
でもそれができる医院だと思っていただいているから
いらしていただいている
以前ある内科の先生に
その歯の治療で麻酔をするかどうか相談しました
「もしかしたらちょっとしみるかもしれないですが」
と話すと
「医者の言う『ちょっと』は、『ちょっと』でないことが多い」
とのことでした。
非常に難しいバランスだと思います。
歯医者が慣れていることでも
当然ながら患者さんが慣れているわけではない
まさか大丈夫だろうと思っていても
予想外の反応が出てしまって
時に患者様に迷惑をかけてしまうこともあります。
だからといって
不安をあおってもいけないし
それこそ
腫れ物に触るようにしていては
いつまでも治療が進みません
こういうバランスをとりながら
大胆かつ繊細に治療を進めて
受け入れてもらえる結果、
予想以上の結果、を出す
そうありたいと思っています。
2021年08月15日 18:26