抜歯しないことについて
何年か前に初診でいらした高齢の男性で歯で悩んでいるとのこと
診察させていただくと
唇に手をかけただけで
「僕はダメなんですよ」
とおっしゃられて
何とかレントゲンと
口腔内規格写真というものを
撮影させていただいて
見てみると
上下入れ歯が入っているのですが
入れ歯の下には
虫歯で根だけになって
歯肉に埋まったり
膿んでいる歯が20本以上あり
これは大変だっただろうなあ
と思いました。
でも診療室で患者様に対して
「大変だったですね」とは言いません。
前医の否定になるので
その先生は富裕層の中では有名な?
先生だったようで
絶対抜かない、というのが
コンセプトだったとか
私も基本的に
歯をできるだけ残すという
考え方ですが、
前回のブログでも書きましたが
状態の悪い歯が残っていることで
その方の生活の質が低下するとか
健康に悪影響を及ぼすならば
話は別です。
もし今のお悩みを解決したいならば
根だけになって膿んでしまっている歯が
20本近く抜歯が必要で
残せそうな歯はしっかり根の治療をして
かぶせ直しと
上下入れ歯の作り直しが必要という話をしました。
費用も200万円以上かかる計画になり
驚かれて、どうするか決めかねるご様子でした
当然だと思います。
その歯科医がどんな診療をするのか
痛くなく、つらくないように
治療を完遂してくれるのか
治療前には
わからないわけです。
しかしながら
まともに食べられないことは
健康上の緊急事態であり
少しずつでも
治療を進めましょうという
話になりました。
唇を触るだけで
恐怖感があるほどなので
はじめは治療を受けることに対して
信頼感を持ってもらうことが必要と思い
最も簡単に終わりそうな抜歯処置を
1時間枠で麻酔から丁寧にさせていただき
治療時の反応を見ながら
少しずつ
ヘビーな処置へ(ヘビーな処置でも痛くなくします)
途中からは
信用していただいたようで
問題なく治療を進めることが
できました。
ただ過去に恐怖感を持ってしまった人は
ちょっとしたことで一気に戻ってしまうことがあるので
かなり配慮は必要でした
歯科恐怖症になってしまうような方は
実はもともと我慢強い方が多いのではと思います。
歯科医に気を使って
我慢しすぎるから
歯科治療との関係がうまくいかなくなるのかと
治療も一年近くかかりましたが
最後まで通っていただいて
上下の入れ歯も入り
微調整もして
治療が終わり
しばらく生活していただいて
チェックのために来院された時にひと言
「先生、これは芸術ですな」
との事でした。
初めの口腔内の状況を見た時には
私も最後まで治療が進んで満足してもらえるだろうか
という思いがありました。
初診の患者様で
口腔内の状態のかなり悪化してしまった方を
拝見するたびに
正直、
この方の治療を最後まで
うまく進めて、満足してもらえるだろうか
と思います。
何とかしてきたから
今があるのだと思いますが
1年計画とかですから
ヒマラヤに登るような感じで
途中何があるかわからない
冒険のような
途中無理をせずに
方針変更することもあります。
まだ学生のころリュックにテントを載せて
あるいは自転車にテントを括り付けて
よく小さな旅をしていました。
でも今はしなくなりました。
人生そのものが旅で
仕事こそが冒険の連続
だからかもしれません。
2024年11月14日 18:57