~かけがえのない歯を大切にする治療、価値ある治療結果、そしてつらくない治療をめざしています~

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日々雑感

歯が原因でない痛み

患者さんが歯が痛いと訴えて来院された場合でも
原因は歯の場合と、歯でない場合があります。

歯の痛みのように感じる
歯が原因でない痛みを
「非歯原性歯痛」
といいます。

患者さんはまるで歯が痛いように感じるので
「歯を治してほしい」と来院されるのですが
注意が必要です。

残念ながら
非歯原性歯痛にたいして
歯の治療をしてしまう事例が
報告されています。

たとえば
悪くない歯を削ってしまったり
神経を取ったり
抜歯になってさえも
痛みが取れない事例

この非歯原性歯痛は
臨床で比較的高頻度に見られます。

原因は
筋肉の痛みだったり
神経線維の傷だったり
痛覚の変調とか
三叉神経痛
上顎洞炎
脳腫瘍などのこともあります。

患者さんは抜けば治るのではないかと
抜歯を希望され
抜歯をしたのに
痛みが取れない、
ということが起こりうるのです。

そのため私たち歯科医は
「これは非歯原性歯痛では」
と思ったときに
安易に削ったり、ましてや抜いたり
しないようにしなければいけません。
しても治らないのですから

痛みに耐えている患者さんには
時間がかかってしまって大変申し訳ないのですが
遠回りになるようでも
ちゃんと評価して
非歯原性歯痛の原因に対する
治療を行うことで
歯を守る必要があります。
 
2022年12月19日 06:32

医者の「ちょっと」

自分が昔
口腔外科にいたころ

残念なことに
この処置は痛くて当たりまえ
みたいな考えがありました。

顎骨骨折のシーネ巻とか
手術後の抜糸、とか

口腔外科でなくてもあります。
下の奥歯の急性歯髄炎の治療とか

患者さんの立場からして
心配なのは
自分がこれから受ける処置は
どうなのか、ということだと思います。

これは歯科に限らず
何科でもあることだと思うのですが

というか、
医科のほうが多いかもしれません。

以前内科の先生に
「ちょっとしみる可能性がある」と言ったら

「医者の言う”ちょっと痛い”は
ちょっとじゃないことが多いので、
麻酔してください」とのことでした。

かつては伝統的に
痛いのはしょうがない、
みたいな認識があったわけですが

今思うと
バタバタと忙しい
大学病院の診療室だから
できなかっただけで

例えば抜糸とか
肉眼でやろうとするから
引っ張らなければいけないのであって

マイクロスコープを使って
0.3mmの糸を
10倍に拡大して切れば

ほとんど引っ張らなくてもいいし
痛くなくできます。
(状況にもよるかもしれませんが)

急性歯髄炎の治療にも
様々な工夫があります。

高杉晋作氏の言葉で
「おもしろきこともなき世を
おもしろく」

というのがあるようですが、

当院では
様々な工夫で

「痛い治療も
痛くなく」

でありたいと思っています。
2022年06月14日 10:33

匙加減(さじかげん)

歯は体を支えています。

治療でかぶせ物をするために
歯を削ったり

入れ歯の噛み合わせを修正したりすると

急に患者さんの身体が傾いたり
逆に姿勢が直ったり
という経験を
多くの歯科医がしていると思います。

しっかりとした奥歯が
しっかりとその人の身体を支えるなら
問題はないのですが

問題となるのは
その歯が過去に虫歯や炎症などで
治療を繰り返していて
既にしっかりしていない場合や、

くいしばりなどで亀裂が入り
壊れ始めている場合です。

たとえば、そういう弱っている歯を
多少無理させてでも
また、しっかりと噛ませたとします。

するとその歯は患者さんの身体をしっかり支え
その身体はベストなパフォーマンスを発揮するでしょう。
しかし、歯の寿命は短くなります。

一方で
そういう弱っている歯が
無理しないように
噛み合わせを弱く当てるならば
歯の寿命自体は長くなるでしょう。

しかし、患者さんの身体パフォーマンスが
低下する可能性があります。

歯科医はこの話はあまり
したがりません。

もちろん
こういう話はエビデンスなどありませんし、
そんなことまで歯科のせいに
されてはたまらん、
というのもあるのでしょう。

また世の中が
歯科の治療の質として
わかりやすい
longevity(長持ちかどうか)
ばかり求める
傾向がある、
というのもあります。

もちろん人の身体には
高度な適応能力があり
多少低くても
調整はされるので
それに期待している部分も
あるでしょう。

ちなみに、この適応能力にも
噛み合わせへの身体反応の鋭敏度にも
個体差があります。

それぞれの歯の状況や噛み合わせの強さや
歯の使い方もそれぞれ個人差があり

太くて短いを望むか
細くて長いを望むか、みたいな
患者さんによって人生観も違い

年齢や
今が人生のどういう頑張りどころなのか、
みたいなこともあるかもしれませんし、

どれだけの費用ならば
どのくらいの期間、治療歯が持ってほしい
という
お金に対する価値観も違います。

歯がなくなった後の対応
インプラントなのか、入れ歯なのか
それらの受け入れによっても違ってくるでしょう。

実は相談すべきことはいくらでもあり
当院ではそういう時間をとるように
していますが、

どれくらい当てるかみたいな
微妙なところは
患者さんとしても聞かれても困る
みたいな部分だと思います。

そういうところ、
結局、歯科の治療は
匙加減、であるといえます。

いろいろ考えて
この人のこの歯は
このくらい当てよう、と

この采配が
当たることもあれば
外れることもあるわけで

患者さんが長く
元気で通ってきてくれる歯科医院は
そのあたりが
良いのかもしれません。


 
2022年06月07日 20:26

麻酔が効きにくいとき

歯科では麻酔を多用しますが
まれに効きにくい方がいらっしゃいます。

「それは麻酔が下手なんだよ」と
言いたい関係者もいらっしゃるかもしれませんが

歯科でよく使う
局所麻酔薬、リドカインは
遺伝子レベルで効きにくい人がいると
言われています。

それから
例えば下顎の奥歯の病状が余りに悪くなってしまって
やむを得ず、複数歯の抜歯や、
手術をしなければならない場合、

下顎孔伝達麻酔という方法があって
これがうまくいくと
術中の鎮痛が
まったく違うものになります。

ただしこれも通常リドカインですし

ちょっと専門的ですが
靱帯が神経の入り口を取り巻いている
解剖学的形態の方もいて

そういう方で効かせるためには
かなりのピンポイントで
注入をする必要があります。

つまりそういう方の場合、
麻酔の成功率が低くなるのです。


では治療しようとして
麻酔が効きにくい時にはどうするか

「ちょっと頑張ってください」と言って
やってしまうか…
それはしません。
やりたくもありません。

どれほど我慢なさっているかわからない状況で
治療を進めるのは
危険だと思います。

ではどうするか

麻酔効果不良時に
リカバリーする方法が
いくつかあります。

患者さんに相談の上で
その方法で麻酔を追加します。

それでも効かなかったらどうするか

相談のうえで
もしよろしければ
もう一回追加します。

それだけやれば
まずリカバリーできるのですが

残念ながら
非常にまれですが
効きが悪い場合があります。

その場合はどうするか

治療を中止します。

歯科の治療の途中であっても
そこまでで
鎮静消毒剤を入れて
ふたをしたり、など対応することで

次回治療時にはより効きやすい
状態にすることができます。


歯科治療は
命のかかった手術や
救命救急処置ではありませんので
無理をすべきではありません。

歯科恐怖になったり
歯科医への信頼を失ってまで
無理くり治療すべきではないと考えます。











 
2022年05月05日 15:29

平均寿命、健康寿命

日本人の平均寿命は
男性82歳、女性が88歳です。

医療へのアクセスが良く
健康志向の方が多い地域では
男女問わず
90近くでも元気、という方々が
多くいらっしゃいます。

一方で日本の平均
「健康寿命」は
男性72歳、女性75歳とされています。
その年齢以降は
日常生活に支障となる何らかの健康問題を
抱えるわけです。

当院にも
お気の毒なことに
ご高齢で、歯も良い状態でなく
お口を拝見すると
「これは噛めないな」と思うような
方が時々受診されます。

そういう方の
「歯列全体」を治療して
しっかり噛めるように、
しっかりしゃべれるように
して差し上げると、失礼な話ながら

「この人こんなにしっかりした人だったの?」
と思うくらい元気になり
びっくりすることが
非常に良くあります。

姿勢や表情や判断力などの性格まで
10年、15年くらい若返ったんじゃないかな
と思うくらい

生物にとって歯がいかに重要なものか
実感します。

そういう方々は
もともと歯医者に行っていなかった、のではなく
歯医者には通っていたが
もうご高齢だからと
抜本的な改善をせず
「とりあえずの」治療を繰り返していた

そういう方が多いように思います。
歯科医側も遠慮していたのかもしれません。

でも私は
歯科医側が勝手に遠慮するのは
良くないと思います。

その「とりあえず」では解決しなかった
抜本的な噛み合わせの改善が
残りの人生の質も、長ささえも左右するほどの
重要な問題に
なることがあるからです。

患者様にとって歯科医はプロフェッショナルです。
プロに「やめときましょうか」と言われたら
患者様は「そうか、そういうものなのか」と
思ってしまうかもしれません。

患者様は根本的な歯科治療の先に
驚くような生活の質の改善の可能性があるなど
知る由もないのです。

ご高齢になってしまうと
治療ができる健康状態なのか、
という問題もあります。
全体の治療には半年とか1年とか時間もかかります。
通う体力も必要でしょう。
もちろん患者様のご希望もあります。

ちゃんと噛めず
体力も低下したご高齢の患者様がいらしたとき
大変失礼な話ですが
「はたして間に合うか」
と思うことがあります。
時間的にも
その方のお気持ちの問題も含めてです。

歯科医が勝手に遠慮することなく提案し

健康寿命を延ばして
平均寿命との差を縮めるのも
歯科の役割と考えています。



 
2021年12月13日 12:00

教科書的、について

教科書的には抜歯すべき、とされるくらい
状態の悪化した歯が
その後の治療により改善し、
その後長期間機能する、
といったことがよくあります。

抜歯の基準とはなにか
考えさせられます。

こんな話がありました。

とある分野の日本人の専門医が
新しい治療法を開発し、
それまでできなかった症例の
治療ができることを
明らかにしました。

彼はアメリカの有名学術誌に
投稿しましたが、
受理されませんでした。

その理由は
「診断が違う」とのこと

画期的な治療法なのに
これまでのエビデンスに基づいていない?

最近何かとアメリカの硬直化が気になりますが…

その後彼は世界的に有名な学術誌に投稿しなおしたところ、
なんと賞を取りました。

エビデンスとは何か
考えさせられます。

昔日本の歯科で猫も杓子もEBMと騒いだ時期があって

私の友人のスウェーデン帰りのDrが
「これはエビデンス・ベースド・メディシンじゃなくて
エビデンス・ビリーブド(Believed)・メディシンだ」

と笑っていたのを思い出します。



 
2021年11月16日 13:28

どこまで治すか

人の歯は上に14本、
下に14本あります。
(親知らずを除く)

これを「歯列」と言います。

歯科医が治療するにあたり
「どこまで治療すべきか」
という問題があります。


どこまで、とは

依頼された「その歯」だけ治せばいいか

「歯列全体」の健康を考えるべきか

「歯列全体と顎の関節など咀嚼器官」の健康まで考えるべきか

「歯列全体と顎の関節など咀嚼器官から体のゆがみや重心など体全体のこと」まで
考えるべきか

歯科医によって考えはそれぞれです。

私自身は「体全体のこと」まで考えて
学び続けるべきだと
思ってはいますが

話が大きくなるほど
科学的根拠が怪しくなってくることも
事実です

老化で変化してゆく体に対して
歯だけがそれにあらがうことが
そもそもできるのか、というのもあります。

どこまでやるべきか
どこまでできるのか

人は変わってゆきますし
変化は経験しなければわからないと思います。

やはりこれは
いろいろな関係性(バランス)の問題であり
 

それぞれの患者様と我々との関係
それぞれの患者様の老化とその受け入れの関係
その処置の学問的正確さと臨床実感の関係
それぞれの患者様の自然治癒力との関係

歯科にかかわることは
さまざまな動的な平衡状態を維持しつづけることでも
あると思っています。
 

2021年08月26日 00:03

「治療時間」について

 

歯の治療時間は飛行機の
飛行時間に似ていると
思います。

飛行機は
離陸して、
安定飛行に入り、
そして着陸するわけですが

短距離のフライトなど
たとえば羽田ー大阪便など
時刻表では1時間5分ですが、
その大部分の時間が
離陸準備からの離陸と、
着陸準備からの着陸、の時間に費やされます。

安定飛行している時間は
どのくらいでしょうか

安定飛行している時間を
10分とか15分延ばせば
広島くらいまで行けてしまう

歯の治療もそれに似ていて
チェアを消毒して、患者様を誘導、座っていただいて
説明、麻酔、仮歯を外したり、治療部位の消毒その他

最後に
仮歯の調整、装着、説明など
するわけで

その間に
安定飛行時間でなくて
安定治療?時間があります。

離陸と着陸を省略できないのは
歯の治療も同じです。

その昔、毎回20分とか時間に遅れて来院なさる方がいらして
離陸着陸の話をさせてもらったことがあるのですが

そういう方の場合、
離陸と着陸ばかりに
時間を費やしていたことになります。

安定飛行の時間にできるだけ距離をかせぎたいわけです。

たとえば今のように1アポイント1時間でなくて
1時間半とかにすれば
もっとグーンと治療が進むかもしれませんが

歯科治療を
1時間するだけでも
結構な体力が必要だと思いますので

ご相談の上、
特に急ぐ場合や
大きな治療の場合のみ
長い治療時間を取らせていただいています。





 

2021年08月03日 11:05

力と調和

一般的に力が強くかかる歯ほど
問題が起きやすくなる傾向があります。

歯に力がかかりすぎると
欠けたり
ヒビが入ったり
詰め物が緩んできたりしやすいです。

そこから虫歯が進みます。

ではそういった歯を
すごくかたい材料でクラウンを作って
ガチっと固めたらどうなるか

今度はその歯の歯根や
支えている骨に
歯根破折や
炎症などが起きやすくなります。

ではいっそのこと
歯を抜いてしまって
強力な太いインプラントなどを植立して

上下で強力に噛ませたらどうか

そうすると
おそらく顎関節に問題が起きてきます。

こういう連鎖を
我々の業界では
Weak Link Theory
ウイークリンクセオリーと言います。

修復は
ただ強固に
同じ形態を回復するだけでは
ほかに問題が起きます

では、どうすればいいのでしょう。

バランスをとる必要があります。

歯は歯種によってそれぞれ役割があり
上の顎と下の顎で噛みあい
顎関節や筋肉と連携して機能しています。

そしてそれぞれの歯や
関節や筋肉は
年齢やそれまでの既往歴に応じて
欠けたり、すり減ったり
様々に変化してしまっています。

一つのチームとも言えます。
適材適所でメンバーが頑張っていて
でも全員が同じように歳をとっていきます。

ある日、すごい頑張っていた人とうとうダウンして

で、その人が手術して、なんとか健康を回復したら
またダウン前と同じ仕事量で仕事させるのが得策でしょうか。

誰かがダウンしたならば
そのほかの人たちもかなり疲弊していると
考えるべきです。

皆が無理せず、長く活躍できて
全体が良好に機能しつづけるためには
調和を達成する必要があります。

歯の治療は突き詰めようとすると
極めてオーダーメイド性が高いと感じます。

歯科医としてのかかわり方としては
1本治して終わり、とするかかわり方も
ありますが、

私はあまりしたくありません。
トラブルの連鎖になるからです。
ずーっと歯科医院に通うことになりかねません。

一方で
なぜこの歯が悪くなったか、
この先どうなることが予想されて
では今後生活の質をできるだけ下げないために
どうするのが最善か

あるいは逆に
今より生活の質を上げられるアプローチ、
治療法や材料はあるのか、

そういったことを考えながら対応すると
治療期間や費用はかかりますが
かなりいい結果が出せるレベルまで
歯科医学は来ている、と感じています。




 
2021年06月20日 19:06

痛みについて

久しぶりに痛みの話です

歯科では一般的に
歯や歯肉の治療を行います。

そして治療時の痛みをなくすために
麻酔を行うわけですが

どこの歯か
どこの歯肉か、によって

麻酔の効き方が違います。

さらに
歯や歯肉に炎症があるかどうか、でも
麻酔の効き方が違ってきます。

どんな場所でも
どんな状況でも
麻酔をちゃんと効かせて
痛くないように治療を完遂できるか

もちろん
麻酔そのものも痛くなくです。

これらは
歯科医の腕次第です。

さらに言えば
過去の治療で痛い思いをしたかどうか、
によっても
麻酔の効き方は違ってきます。

つまり
患者様の過去の歯科治療の状況や
歯科に限らず
医療のホスピタリティーへの
不信感のレベルに応じて

こちらがスタンスを変える必要があります。

過去の経験から
なかなか本格的な治療に踏み切れず

近づいたと思ったらまた離れて、を
繰り返す場合もあります。

それはそれでいいと思っています。
もちろん、毎回、治療の必要性をお伝えはします。

修復のプロセスには時間がかかる、
これはやむを得ないことです。

私は私の医院で
患者様に大変な思いをしてほしくない
と思っています。

もちろんその後の人生のために
治療をきちんとやる、そのために
時間や手間がかかるのはしょうがない

ただ大変な思いは
してほしくないです。

はじめから最後までつらくないように
ベストを尽くしますが

患者様により感受性や
体の反応も違ったりしますので

もし治療が少しでも痛むようなことがあれば
何とかしますので
遠慮しないで言ってほしいと思います。

具体的であると助かります。
「今触ったところだけ、ピリッとしました」
とか
「何となくしみてきました」
とか

我慢しすぎて
歯科への信頼を失うことだけは
避けたいと思っています。










 
2021年05月03日 01:04

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