~かけがえのない歯を大切にする治療、価値ある治療結果、そしてつらくない治療をめざしています~

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日々雑感

運動不足、感動不足

年末の大掃除で
ラジオを聴きながら部屋を片付けていると
認知症の方たちのネットワークについての
番組をやっていました。

認知症患者の介護者の
ネットワークではありません。
認知症患者自身によるものです。

その出演者の皆さんの
前向きな姿勢
明るさに驚きました。

自身の認知症という病気特有の
問題に対する
様々な配慮や工夫を共有しながら
働き続けていたり
生きがいのある人生を
切り開き続けている

認知症患者数の将来予測は
一概には難しいようですが
一説によると
2050年代に約1千万人近くなる?

日本の人口が減ってゆくのに
何分の一が認知症患者になるのでしょう。

認知症と診断されたら
大変なショックを受けるでしょうし
今後を悲観するのは
当然だと思います。

しかし認知症は
不治の病ではありますが
その進行を遅らせることもできるし
死ぬ病ではありません

認知症と診断されても
いかにその進行を遅らせるか、

誰かのために、自分のために
いかに生きがいある、感動のある
人生を送るか

聖路加の日野原先生が言ってらしたらしいですが
運動不足より深刻なものは
「感動不足」かもしれません。

ご老人で認知症でも明るい患者様を見ていて思うのは
彼らは見たことをすぐ忘れてしまっても

同じ花なのに見るたびに
「きれいねー」と感動できる
初めて見るかのように、です

やがて国民の少なくない比率の人口が
認知症と診断されるようになるなら

もはや認知症という病気でなく
「認知障害を持つ人」として

社会多様性の中で
お互い注意点を共有しつつ
社会の一翼を担っていく、というのも
ありなのではないのか

そう思いました。



 
2021年12月31日 19:37

平均寿命、健康寿命

日本人の平均寿命は
男性82歳、女性が88歳です。

医療へのアクセスが良く
健康志向の方が多い地域では
男女問わず
90近くでも元気、という方々が
多くいらっしゃいます。

一方で日本の平均
「健康寿命」は
男性72歳、女性75歳とされています。
その年齢以降は
日常生活に支障となる何らかの健康問題を
抱えるわけです。

当院にも
お気の毒なことに
ご高齢で、歯も良い状態でなく
お口を拝見すると
「これは噛めないな」と思うような
方が時々受診されます。

そういう方の
「歯列全体」を治療して
しっかり噛めるように、
しっかりしゃべれるように
して差し上げると、失礼な話ながら

「この人こんなにしっかりした人だったの?」
と思うくらい元気になり
びっくりすることが
非常に良くあります。

姿勢や表情や判断力などの性格まで
10年、15年くらい若返ったんじゃないかな
と思うくらい

生物にとって歯がいかに重要なものか
実感します。

そういう方々は
もともと歯医者に行っていなかった、のではなく
歯医者には通っていたが
もうご高齢だからと
抜本的な改善をせず
「とりあえずの」治療を繰り返していた

そういう方が多いように思います。
歯科医側も遠慮していたのかもしれません。

でも私は
歯科医側が勝手に遠慮するのは
良くないと思います。

その「とりあえず」では解決しなかった
抜本的な噛み合わせの改善が
残りの人生の質も、長ささえも左右するほどの
重要な問題に
なることがあるからです。

患者様にとって歯科医はプロフェッショナルです。
プロに「やめときましょうか」と言われたら
患者様は「そうか、そういうものなのか」と
思ってしまうかもしれません。

患者様は根本的な歯科治療の先に
驚くような生活の質の改善の可能性があるなど
知る由もないのです。

ご高齢になってしまうと
治療ができる健康状態なのか、
という問題もあります。
全体の治療には半年とか1年とか時間もかかります。
通う体力も必要でしょう。
もちろん患者様のご希望もあります。

ちゃんと噛めず
体力も低下したご高齢の患者様がいらしたとき
大変失礼な話ですが
「はたして間に合うか」
と思うことがあります。
時間的にも
その方のお気持ちの問題も含めてです。

歯科医が勝手に遠慮することなく提案し

健康寿命を延ばして
平均寿命との差を縮めるのも
歯科の役割と考えています。



 
2021年12月13日 12:00

そぐわないこと

仕事上の事務的なコミュニケーションでは
SNSは非常に便利ですが

ここで「最近の若い人は」とかいうと
歳を取った証かもしれません

最近は武道場でも
若者が「みんながSNSで繋がり
即時的なコミュニケーションがあれば
何とかなる」
と思っていることについて

少々残念というか
非常にもったいないと
感じています。

「即時」であることの
弊害というか

即時に
「それはどういう意味ですか?」と
質問する人は
そもそも理解する気がないのではないか
と思うときもあります。

心の琴線に触れれば
一瞬止まるはずですし

そこで出るべきか
「ひかえる」べきか

それができるか
できないかの違いが
大事ではないか、と思うのです。

たとえ琴線に触れなくても
その小さなきっかけを
空間的、立体的、
時間的にとらえて
ふくらませるような

いわゆる
「もったいぶる」ことの
大切さ

空気感と言いますか
最近の風潮とは真逆かもしれませんが
極めて日本的な
場の雰囲気づくり

そういうことをとことん
道場でやるべきだと思っています。

気安く、上下関係もなく
皆が仲良しであればいいとは
思っていません。

自らわきまえて
心を澄ませて
見ようとしなければ
見えないことを拾うような稽古

いずれそういう態度を
伝える指導ができるようになれたら
いいなあと思います。

武道場であれ、
実社会でもそうかと思いますが
経験は成長の糧であり

小さな手掛かりを拾って
持っておいて
ふくらませられるか
ふくらませられないかの違いは
大きいのではないかと感じます。

師であれ、同僚であれ
はっきり伝えられない言葉には
「そういう意味」があり

特に優れた指導者の言葉や態度には
後から創造性を爆発させるスイッチが
秘められていることも多いように感じます

すぐには理解できなくても
「拾って」おいて
結論を棚上げし
時間をかけて
小さなきっかけの価値を
最大化するような

道場はそういう感性や
思いを、
磨く場所なのではないか、と
勝手にですが、感じています。



 
2021年12月09日 05:52

教科書的、について

教科書的には抜歯すべき、とされるくらい
状態の悪化した歯が
その後の治療により改善し、
その後長期間機能する、
といったことがよくあります。

抜歯の基準とはなにか
考えさせられます。

こんな話がありました。

とある分野の日本人の専門医が
新しい治療法を開発し、
それまでできなかった症例の
治療ができることを
明らかにしました。

彼はアメリカの有名学術誌に
投稿しましたが、
受理されませんでした。

その理由は
「診断が違う」とのこと

画期的な治療法なのに
これまでのエビデンスに基づいていない?

最近何かとアメリカの硬直化が気になりますが…

その後彼は世界的に有名な学術誌に投稿しなおしたところ、
なんと賞を取りました。

エビデンスとは何か
考えさせられます。

昔日本の歯科で猫も杓子もEBMと騒いだ時期があって

私の友人のスウェーデン帰りのDrが
「これはエビデンス・ベースド・メディシンじゃなくて
エビデンス・ビリーブド(Believed)・メディシンだ」

と笑っていたのを思い出します。



 
2021年11月16日 13:28

どこまで治すか

人の歯は上に14本、
下に14本あります。
(親知らずを除く)

これを「歯列」と言います。

歯科医が治療するにあたり
「どこまで治療すべきか」
という問題があります。


どこまで、とは

依頼された「その歯」だけ治せばいいか

「歯列全体」の健康を考えるべきか

「歯列全体と顎の関節など咀嚼器官」の健康まで考えるべきか

「歯列全体と顎の関節など咀嚼器官から体のゆがみや重心など体全体のこと」まで
考えるべきか

歯科医によって考えはそれぞれです。

私自身は「体全体のこと」まで考えて
学び続けるべきだと
思ってはいますが

話が大きくなるほど
科学的根拠が怪しくなってくることも
事実です

老化で変化してゆく体に対して
歯だけがそれにあらがうことが
そもそもできるのか、というのもあります。

どこまでやるべきか
どこまでできるのか

人は変わってゆきますし
変化は経験しなければわからないと思います。

やはりこれは
いろいろな関係性(バランス)の問題であり
 

それぞれの患者様と我々との関係
それぞれの患者様の老化とその受け入れの関係
その処置の学問的正確さと臨床実感の関係
それぞれの患者様の自然治癒力との関係

歯科にかかわることは
さまざまな動的な平衡状態を維持しつづけることでも
あると思っています。
 

2021年08月26日 00:03

シミュレーションの世界

最近はあまり考えなくなりましたが

以前はこの世界がどのようにできたのか
知りたいと思っていました

もしかしたら試験管の中で
あるいはコンピュータの中に
作られた世界なのではないか、とか

宇宙の始めの瞬間の、その前はどうなっているのか、とか
あるいは物質をずっと分解していくとどうなるのか、とか
逆に宇宙を外から見るとどうなっているのか

最近は残りの人生をよりよく生きることの方が
大事になってしまった?ようで
めっきり考えなくなってしまいましたが…

こういうことを考えるには
若さ、が必要なのかもしれません。

その昔、患者さんとして来院していた
関連する分野の大学教授に質問したことがあります。
女性でAIシミュレーションなどの
研究者でしたが

例えば
コンピューターが進化すれば
この世界すべてとは言わなくとも
人間一人の体くらい

原子レベルから設定して
バーチャル上で作り上げることはできるのではないか、と


そうしたらそれはまだ無理だそうです。

「なぜなら私たちは”摩擦”すらよくわかっていない」
とのこと。

そういえば高校のころ
摩擦係数がでてきたころから
物理に?と思うことが多くなったような
記憶がありますが
意外とそういうことだったのかな、
なんて思いました。



 
2021年08月19日 07:17

陽だまり

認知症の話が連続していますが

私が診察に行っている老人ホームでのことです。

重度に認知症が進んでしまって
もはや寝返りを打つこともなく
発語や表情もなく
意思疎通も不可能な入所者のとある女性が
穏やかな陽だまりのベッドで横たわっていました。

私たちは口腔ケアのために部屋に入り
お声がけをして
お口を開けさせていただいたところ、
驚きました。

普段は乾燥気味の口腔内なのに
その日は大量の粘度の高い喀痰が
溜まっていたのです。

褥瘡防止のための側臥位であったので
窒息しなくて済んだのだと思いますが

急いで吸引器で喀痰をすべて除去し
口内を拭き上げて差し上げました。

部屋の壁にはその方の元気なころの写真や
ご家族とにこやかに過ごす写真が貼られていて

なんとなくですが、写真の中の穏やかなお顔に
戻ったような気がしました。







 
2021年08月15日 20:02

認知症と性格


私は時々、老人ホームで診療をしています。

いろいろな病気で入所されている方々がいらっしゃいますが
認知症の方も多いです。

そういう方の歯科治療や口腔ケアを行っています。
口腔ケアをするのは、口の中がきれいになっていると
誤嚥性肺炎が起きにくくなることが
知られているからです。

歯科衛生士さんとともにゴロゴロとカートを押して
病室に行き
お声がけをして
口腔ケアをさせていただくのですが

同じ認知症でも
とても明るく感じよく
処置後に感謝してくれる方もいれば

残念ながら
とても攻撃的だったり
ひどいことをされているかのように
大騒ぎされる方もいます。

よくスタッフルームで話すのですが

認知症になってしまった後も
そのように
いつも明るく朗らかに感謝してくれる人もいれば
残念ながら、いつも被害妄想や攻撃性を強く持つ人もいる

なにが違ったのか

痴呆後のその人の性格を分けるものは
その人が元気だったころの
何なのか

経験なのか
幼児体験なのか
育て方なのか
物事のとらえ方なのか
自信なのか

では自分はどうあるべきなのか、
考えさせられます。


 
2021年08月15日 19:19

歯科治療の記憶

ご高齢になって痴呆が進んでしまうと
発語もなくなり、
表情の変化もなくなり
意思疎通ができなくなります。

昔、ご主人が車いすを押して
奥様を連れてくるご夫妻がいらっしゃいました。

その奥様も痴呆が進んでしまって
かぶせ物が取れたり
トラブルの時だけご夫婦でいらっしゃるのですが

やはり意思疎通は全く取れないし
全くしゃべらない状態でした。

治療も可能な範囲での対応になります
無理をしても危険なためです

そんなある日、前歯が取れた、と来られました。
口の中を拝見して、
何とか再装着できるかもしれないと
処置を始めようとしたところ

普段から全く発語のないその奥様が
ごく小さな声で
何か言っていることに気づきました

びっくりして
よくよく耳を澄まして聞いてみると

「はいしゃ、こわい」
とのことでした

その方がいつどのタイミングで痴呆になってしまったのかは
わかりませんが、

ほぼ全部の歯が治療途中でした。
それも途中までですが、かなりいい材料が使われていて
歯医者さんも腕によりをかけて
治療していたのだと思うのですが
治療の途中で何らかの病気で
中断になってしまったのでしょうか

歯科医が腕によりをかけて
これが患者さんのためだと
これがいいのだ、と
信じて行っている治療が

患者さんに恐怖感や苦痛を与えてしまうことも
一般的には、あるわけです。

気を付けないといけないと思いました。
治療が大きくなるほど、
難しい歯を救おうとするほど
そのハードルは高くなりますが

でもそれができる医院だと思っていただいているから
いらしていただいている


以前ある内科の先生に
その歯の治療で麻酔をするかどうか相談しました

「もしかしたらちょっとしみるかもしれないですが」
と話すと

「医者の言う『ちょっと』は、『ちょっと』でないことが多い」
とのことでした。

非常に難しいバランスだと思います。
歯医者が慣れていることでも
当然ながら患者さんが慣れているわけではない

まさか大丈夫だろうと思っていても
予想外の反応が出てしまって
時に患者様に迷惑をかけてしまうこともあります。

だからといって
不安をあおってもいけないし
それこそ
腫れ物に触るようにしていては
いつまでも治療が進みません

こういうバランスをとりながら
大胆かつ繊細に治療を進めて
受け入れてもらえる結果、
予想以上の結果、を出す
そうありたいと思っています。











 
2021年08月15日 18:26

「治療時間」について

 

歯の治療時間は飛行機の
飛行時間に似ていると
思います。

飛行機は
離陸して、
安定飛行に入り、
そして着陸するわけですが

短距離のフライトなど
たとえば羽田ー大阪便など
時刻表では1時間5分ですが、
その大部分の時間が
離陸準備からの離陸と、
着陸準備からの着陸、の時間に費やされます。

安定飛行している時間は
どのくらいでしょうか

安定飛行している時間を
10分とか15分延ばせば
広島くらいまで行けてしまう

歯の治療もそれに似ていて
チェアを消毒して、患者様を誘導、座っていただいて
説明、麻酔、仮歯を外したり、治療部位の消毒その他

最後に
仮歯の調整、装着、説明など
するわけで

その間に
安定飛行時間でなくて
安定治療?時間があります。

離陸と着陸を省略できないのは
歯の治療も同じです。

その昔、毎回20分とか時間に遅れて来院なさる方がいらして
離陸着陸の話をさせてもらったことがあるのですが

そういう方の場合、
離陸と着陸ばかりに
時間を費やしていたことになります。

安定飛行の時間にできるだけ距離をかせぎたいわけです。

たとえば今のように1アポイント1時間でなくて
1時間半とかにすれば
もっとグーンと治療が進むかもしれませんが

歯科治療を
1時間するだけでも
結構な体力が必要だと思いますので

ご相談の上、
特に急ぐ場合や
大きな治療の場合のみ
長い治療時間を取らせていただいています。





 

2021年08月03日 11:05